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広島地方裁判所福山支部 昭和59年(ワ)6号 判決 1986年1月24日

原告 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 服部融憲

被告 佐藤徳雄

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 坂本皖哉

主文

被告らは、各自原告に対し金八五八万四四四六円及び内金七〇八万四四四六円に対する昭和五七年五月二一日から、内金一五〇万円に対する同五九年二月二四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

この判決は原告に勝訴の部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告

被告らは、各自原告に対し、金八六九八万七二三二円及び内金八二九八万七二三二円に対する昭和五六年一月一一日から、内金四〇〇万円に対する本訴状送達の日の翌日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言。

二  被告ら

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二主張

一  請求原因

(一)  事故の発生

原告は昭和五六年一月一一日午前二時二〇分頃、被告佐藤牧子が運転する普通乗用車(福山五五ほ五五七八)に同乗していたところ、右車両が福山市緑町三菱電機株式会社先路上にあった道路脇の電柱に衝突し、顔面裂傷、頸椎捻挫、頸椎棘突起骨折、及び胸部打撲等の傷害を負った。

(二)  責任

被告佐藤牧子は、本件事故当時前記車両を運転していたものであるが、当時降雪し、路上が凍結していたのに、スピードを出しすぎ、かつハンドル操作及びブレーキ操作を誤って過失により原告に対し前記傷害を負わしたものであるから民法七〇九条により、また被告佐藤徳雄は前記車両を所有し保有していたものであるから自賠法三条により、それぞれ原告が本件事故により蒙った損害を賠償する責任がある。

(三)  損害

1 治療費 金一三万七〇三二円

原告は前記傷害のため、国立福山病院で加療(入院三一日、通院実日数二日)し、それに要した費用は金一三万七〇三二円であった。

2 入院雑費 金三万一〇〇〇円

原告は右加療のため三一日間入院を要したが、一日当りの雑費は金一〇〇〇円が相当であるから、金三万一〇〇〇円の雑費を要した。

3 休業損害 金三二六万九五四六円

(1) 原告は本件事故当時、福山市南町九番一号東天鳳内でスナック「ロジエ」を経営していたものであり、そこでの事故前三ヶ月の売上げは左のとおりであった。

昭和五五年一〇月 金三〇六万八〇三〇円

同年一一月 金三〇九万二一五〇円

同年一二月 金三九七万二七一〇円

(2) 原告の経営する「ロジエ」の右売上げに対する所得率は四八・四%が相当であるところ、原告は本件事故のため昭和五六年一月一一日から同年三月一二日までの二ヶ月間右「ロジエ」を休業した。

(3) よって、原告は本件事故により金三二六万九五四六円の休業損害を蒙った。

(3068030+3092150+3972710)×1/3×0.484×2≒3269546

4 逸失利益 金七九九五万三七三六円

(1) 原告は本件事故により、前記傷害を蒙り、その結果後遺障害等級七級一二号に該当する顔面の醜形及び頸部痛を残し、その労働能力喪失率は五六%が相当である。

(2) 原告は、前記のとおり、スナック「ロジエ」を経営していたものであるが、本件事故による休業及び後遺障害により、客商売である右「ロジエ」を廃業せざるを得なかった。

原告は事故当時四六才であり、すくなくも満五五才まで右「ロジエ」のオーナーとして接客業を継続することは可能の状況であった。

(3) よって前記の原告の所得を基礎に原告の逸失利益を算出すると金七九九五万三七三六円である。

(3068030+3092150+3972710)×1/3×12×0.484×7.278×56/100≒79953736

5 慰藉料 金一〇〇〇万円

原告は国立福山病院に昭和五六年一月一一日から同年二月一〇日まで一ヶ月間入院し、その後も三ヶ月ほど右病院に通院し、さらに後遺症として第七級に該当する障害を残し、その受傷部位が女性である原告の顔面であること及び原告が自らオーナーとして接客業であるスナックを経営していたことを考慮すると、その慰藉料は金一〇〇〇万円を下らないというべきである。

6 弁護士費用 金四〇〇万円

原告は被告らに対し損害賠償の請求をしたが、被告らがこれに応じないため、やむなく原告代理人に本訴提起を依頼し弁護士報酬として金四〇〇万円を支払うことを約した。

(四)  損益相殺

原告は本件事故に関し、自賠責保険から金八八〇万四〇八二円を、被告佐藤徳雄から金一六〇万円を受領した。

(五)  よって原告は被告らに対し、各自金八六九八万七二三二円及び内金八二九八万七二三二円に対する昭和五六年一月一一日から、内金四〇〇万円に対する本訴状送達の日の翌日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)の事実中、原告の受傷の事実は不知、その余の事実は認める。

(二)  同(二)の事実は認める。

(三)1  同(三)12の事実は不知。

2 同(三)3(1)(2)の事実中、原告が本件事故当時、福山市南町九番一号東天鳳内で、スナック「ロジエ」を経営していた事実は認め、所得率が四八・四%が相当であるとの点は争い、その余の事実は不知。

同(三)3(3)は争う。

3 同(三)4(1)の事実は不知、(2)の事実は否認する。原告がスナック「ロジエ」を廃業したのは多額の負債を有していたことと、「ロジエ」の店舗につき家主から明渡しを強制されたためであって、本件事故と関係はない。

4 同(三)5は争う。

5 同(三)6の事実中「原告が訴訟代理人に弁護士報酬として金四〇〇万円を支払うことを約した事実は不知。

(四)  同(四)の事実は認める。

三  被告らの主張

(一)  訴外水野博継は、原告との間の当庁昭和五六年(ワ)第二六一号貸金請求事件の判決の執行力ある正本に基き、昭和五七年三月三〇日当庁に対し、原告を債務者、被告らを第三債務者として、原告が被告らに対して有する本件交通事故に基づく損害賠償債権の内金八六七万四〇〇〇円について、債権差押命令を申請(当庁昭和五七年(ル)第四一号)したところ、同年三月三一日右事件につき債権差押命令が発せられ、右命令は同年四月一日被告らに、同月一八日原告に対しそれぞれ送達された。

その後右水野は被告らに対し右金八六七万四〇〇〇円の支払を求めて当庁昭和五七年(ワ)第一七六号差押債権取立請求事件を提起し、右事件は同五八年一月一四日右水野の全面敗訴となり、右事件は水野が控訴を断念したことにより確定した。

右事件の既判力は民訴法二〇一条二項の規定により本件原告に及ぶから、本件は前記当庁昭和五七年(ワ)第一七六号差押債権取立請求事件の既判力に抵触し、却下を免れない。

(二)  原告は被告佐藤牧子の車に好意同乗していたものであるから、相当の減額は免れない。

四  被告らの主張に対する答弁

当庁昭和五七年(ワ)第一七六号事件の存在及びその経過は被告ら主張のとおりである。

ところで訴外水野博継の被告らに対する訴訟は民訴法二〇一条二項に規定するいわゆる法定訴訟担当であるが、右規定は債権者の債権を保全するために認められた制度である反面、債務者は右訴訟担当の許容される範囲で当該財産の管理処分権能を剥奪され、かつ既判力も及ぶようになっている。

しかし訴外水野がこれを行使しうる範囲は訴外水野の債権の保全に必要な限度に限られるべきものであって、訴外水野が原告に対する金銭債権に基づいて原告の被告らに対する金銭債権を代位行使する場合においては、訴外水野は自己の債権額の範囲においてのみ原告の被告らに対する債権を行使しうるものであるから、結局前記事件の既判力が原告に及ぶとすれば、訴外水野の被告らに対する請求金額に限られる。

さらに右事件の既判力が原告に及ぶのは本件の如き可分債権の請求訴訟では訴外水野が被告らに対する訴訟において給付判決がなされ、かつ判決主文に表示された金額に限られるものであって、本件の如く訴外水野が被告らに対する裁判で請求棄却の敗訴判決をうけた場合、その判決の既判力は原告に及ばないものである。

よって被告らの主張は理由がない。

第三証拠《省略》

理由

一  原告の請求原因(一)、(二)の事実中、原告が本件事故により、顔面裂傷、頸椎捻挫、頸椎棘突起骨折及び胸部打撲等の傷害を負った事実は《証拠省略》により認められ、その余の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで原告の損害について判断する。

(一)  治療費

《証拠省略》によれば、原告主張のとおり、原告が本件事故による傷害の治療のため金一三万七〇三二円を支出したことが認められる。

(二)  入院雑費

《証拠省略》によれば原告が本件事故による傷害の治療のため三一日間入院したことが認められ、その間の入院雑費として金二万四八〇〇円(一日当り金八〇〇円)を支出したものと認める。

(三)  休業損害

原告が本件事故当時福山市南町九番一号東天鳳内でスナック「ロジエ」を経営していた事実は当事者間に争いがない。

原告は本件事故により、昭和五六年一月一一日から同年三月一二日までの二ヶ月間右スナック「ロジエ」を休業し、二ヶ月間の休業損害が生じた旨主張するけれど、《証拠省略》によれば、スナック「ロジエ」は休業することなく、事故の翌日から(ママである原告は店に出ることはなかったけれども)従前通り営業し、同年八月廃業するまで営業を続けていたことが認められるから、原告の休業損害としては、スナック「ロジエ」の収益に対する原告の寄与の割合を算定することとなるけれども、スナック等においては、その店の規模、営業場所、ママやホステスの営業手腕、客筋などによりママの収益に対する寄与の割合は種々の場合があり得るから、これについては十分な心証を得られず、結局、原告の休業損害は算出困難というほかはない。

しかしながら右二ヶ月間ママである原告が店に出ないため売上が減じ、収益が減じたであろうことは推認できるので、この点については、後記判示のとおり、慰藉料の算定に当って斟酌することとする。

(四)  逸失利益

原告は、本件事故による傷害のため、自賠責後遺障害等級七級一二号に該当する顔面の醜形及び頸部痛を残し、その労働能力喪失率は五六%であり、原告は本件事故当時四六才であるから、本件事故なかりせば、すくなくも一〇年はスナック「ロジエ」のオーナーとして接客業を継続することは可能であったとしたうえ、その逸失利益算出の基礎となるべき原告の年間所得につき、前記スナック「ロジエ」における昭和五五年一〇月から一二月までの売上から年間売上を算出しこれに所得率を乗じてこれを算出している。

しかしながら《証拠省略》によれば、スナック「ロジエ」は当時家主から店舗の明渡しを求める訴訟を提起されていたため、原告はたの店舗における営業の継続は困難なものと考えて、不動産業者に依頼して他所で営業すべく店舗を物色中であったこと、昭和五六年八月四日右訴訟において明渡し請求を認容する判決がなされたことが認められるのであるから、原告主張のように、原告が今後一〇年(福山市南町九番一号東天鳳内において)スナック「ロジエ」のオーナーとして接客業を継続することは可能であったとは認め難い。

そして、右認定によれば、原告が今後スナックを経営したとしてもその営業の場所は未だ不定であったというほかなく、しかもスナックなる業種は収益の変動の多い業種であると推認できることからすると、原告の逸失利益算出の基礎となる原告の年間所得を、前記スナック「ロジエ」における昭和五五年一〇月から一二月までの売上から年間売上を算出しこれに所得率を乗じて算出することは相当でなく、結局原告の逸失利益算出の基礎となるその年間所得について心証が十分でなく、逸失利益は算定困難というほかはない。

しかしながら《証拠省略》によれば原告は本件事故による傷害のため、自賠責後遺障害等級七級一二号に該当する顔面の醜形及び頸部痛を残していることが認められ、また原告は本件事故当時四六才であり本件事故なかりせば、すくなくも数年はスナックの経営は可能であったということはできるから、原告に後遺障害による逸失利益が存在することは推認できるので、この点についても、後記判示のとおり、慰謝料の算定に当って斟酌することとする。

(五)  慰謝料

前記認定の本件事故の態様、原告の入通院の期間、その後遺障害の程度ことにその受傷部位が女性である原告の顔面であること、原告は自らオーナーとして接客業であるスナックを経営していたこと及び本件事故のため前記のとおり算定困難な経済的損失を蒙ったこと更には原告は被告佐藤牧子の車に好意同乗していたものであること(この事実は原告において明らかに争わないから自白したものとみなされる。)等諸般の事情を考慮すると原告の蒙った精神上の苦痛を慰謝する金額としては金二五〇〇万円を相当と認める。(当裁判所は身体傷害に基く各種損害は合せて一個の訴訟物であるから慰謝料を請求額以上に認定しても請求総額を超えなければ民訴法一八六条に違反しないと考える。)

三  損益相殺

そして原告が本件事故に関し、自賠責から金八八〇万四〇八二円を、被告佐藤徳雄から金一六〇万円を受領したことは当事者間に争いがないから、これを前記原告の損害額合計金二五一六万一八三二円から控除すると原告が被告らに請求しうる金額は金一四七五万七七五〇円となる。

四  弁護士費用

そして弁論の全趣旨により、原告は被告らに対する本件損害賠償請求権を行使するため、弁護士である原告代理人に訴訟委任したことが認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、認容額に鑑みると原告が被告らに支払を求めうる弁護士費用としては金一五〇万円が相当である。

五  そこで被告らの主張について判断する。

訴外水野博継は原告との間の当庁昭和五六年(ワ)第二六一号貸金請求事件の判決の執行力ある正本に基き、昭和五七年三月三〇日当庁に対し原告を債務者、被告らを第三債務者として原告が被告らに対して有する本件交通事故に基づく損害賠償債権の内金八六七万四〇〇〇円について、当庁に債権差押命令を申請したところ、当庁はこれを認め、同五七年三月三一日債権差押命令が発せられ、右命令は原告、被告らに送達されたこと、その後右水野は被告らに対し、本件交通事故に基づく損害賠償債権の内金八六七万四〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年五月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求めて当庁昭和五七年(ワ)第一七六号差押債権取立事件を提起し、右事件につき同五八年一月一四日に右水野全面敗訴の判決がなされ、右水野が控訴を断念したことにより右判決は確定したことは当事者間に争いがない。

そうすると右当庁昭和五七年(ワ)第一七六号差押債権取立事件の既判力は民訴法二〇一条二項により右事件の債務者たる本件原告に及ぶといわざるを得ないが、債務者の第三者に対する債権額が債権者の債務者に対する債権額よりも大である場合は、債権者が債務者の第三債務者に対する債権を代位行使しうる範囲は債権者の債務者に対する債権額の範囲に限られるのであるから、右事件の既判力が本件原告に及ぶのは、右事件において前記水野が被告らに請求した、本件交通事故に基づく損害賠償債権の内金八六七万四〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年五月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員の範囲に限られることとなる。

(なお原告は、原告に既判力が及ぶのは前記水野に対し給付判決がなされ判決主文に表示された金員に限られるものであり、敗訴判決をうけた場合は及ばない旨主張するが、既判力についてのかかる片面的な見解は採用し難い。)

六  そうすると、原告が被告らに本訴において請求しうべき金員は、前記認定の損害金一六二五万七七五〇円及び内金一四七五万七七五〇円に対する昭和五六年一月一一日から、内金一五〇万円に対する同五九年二月二四日(本訴状送達の日の翌日であること本件記録上明らかである)から各支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金から、前記事件の既判力の及ぶ金八六七万四〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年五月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を差引いた、金八五八万四四四六円及び内金七〇八万四四四六円に対する昭和五七年五月二一日から、内金一五〇万円に対する同五九年二月二四日から各支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金ということになる。(左記計算による。円未満切捨て)

(1)  1475万7750円に対する昭和56年1月11日から同57年5月20日までの年5分の割合による金員

1475万7750円×0.05×(1+130/365)=100万0696円

(2)  1475万7750円+100万0696円-867万4000円=708万4446円

よって原告の本訴請求は右の限度で正当と認められるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 下江一成)

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